名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)43号 判決 1995年11月22日
原告
佐藤征一
同
小林保
同
村井く
同
清水ふみ
同
岡島澄雄
同
岩田憲昌
同
塚本鋼
同
松岡義孝
同
合資会社柳湯
右代表者無限責任社員
加藤冨士夫
原告
梶田倍巳
同
跡見靜
同
伊藤鈴一
右原告ら訴訟代理人弁護士
野島達雄
同
中村弘
同
山本秀師
同
打田正俊
同
在間正史
被告
春日井市
右代表者市長
鵜飼一郎
右訴訟代理人弁護士
柘植直也
同
北村利弥
同
戸田喬康
右両名訴訟復代理人弁護士
榎本修
右指定代理人
山本博
外一名
主文
一 原告らの主位的請求を、いずれも棄却する。
二 被告が、原告岩田憲昌、同岡島澄雄、同塚本鋼、同松岡義孝、同合資会社柳湯、同梶田倍巳、同跡見靜、同伊藤鈴一に対し、平成元年一二月一五日付けで、その余の原告らに対し、平成二年二月九日付けでした別紙「仮換地指定処分一欄表」記載のとおりの各仮換地指定処分(借地権に関しては仮に権利の目的となるべき宅地の指定処分)をいずれも取り消す。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1(一) 主位的請求
被告が、原告岩田憲昌、同岡島澄雄、同塚本鋼、同松岡義孝、同合資会社柳湯、同梶田倍巳、同跡見靜、同伊藤鈴一に対し、平成元年一二月一五日付けで、その余の原告らに対し、平成二年二月九日付けでした別紙「仮換地指定処分一覧表」記載のとおりの各仮換地指定処分(借地権に関しては仮に権利の目的となるべき宅地の指定処分)がいずれも無効であることを確認する。
(二) 予備的請求
被告が、原告らに対してした右各処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、春日井市の住民であり、同市柏井町一丁目及び同市八光町一丁目の一部区域(以下、合わせて単に「柏井地区」という。)内に、別紙「土地権利者一覧表」記載のとおり土地を所有し、又は建物を所有する目的で宅地を賃借している者である。
2 被告は、昭和六一年四月一一日、春日井市勝川町五丁目、同町六丁目、同町七丁目の各一部、同市八光町一丁目の一部、同市柏井町一丁目の一部、同市松新町一丁目、同町二丁目、同町四丁目、同町五丁目、同町六丁目の各一部を施行区域とする春日井都市計画事業勝川駅前土地区画整理事業の都市計画を決定し、昭和六三年一月一四日、同整理事業(以下「本件事業」といい、その施行地区を「本件施行地区」という。)の事業計画(以下「本件事業計画」という。)を決定し、平成元年一二月一五日、原告岩田憲昌、同岡島澄雄、同塚本鋼、同松岡義孝、同合資会社柳湯、同梶田倍巳、同跡見靜、同伊藤鈴一に対し、平成二年二月九日、その余の原告らに対し、それぞれ別紙「仮換地指定処分一覧表」記載の内容の各仮換地指定処分及び仮に権利の目的となるべき宅地の指定処分(以下、合わせて「本件各仮換地指定処分」という。)をした。
3 しかしながら、本件各仮換地指定処分には、以下のような重大かつ明白な違法事由が存在する。
(一) 本件事業計画決定の違法性
本件事業計画のうち、柏井地区に関する部分は、以下のとおり本件施行地区に編入したこと自体に重大かつ明白な違法があるから、これを前提としてなされた本件各仮換地指定処分も重大かつ明白な違法がある。
(1) 柏井地区における土地区画整理事業の不存在
土地区画整理事業とは、「公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業」(土地区画整理法(以下単に「法」という。)二条一項)であるから、土地区画整理事業が適法となるためには、その目的として、①公共施設の整備改善と②宅地の利用の増進の双方を併せ有することが必要であり、そのいずれか一方を欠くものは違法となる。また、事業の内容として、③土地の区画形質の変更と④公共施設の新設又は変更の双方を併せ有することが必要であり、そのいずれか一方を欠くものは違法となる。結局①及び②の目的と、③及び④の内容がすべて具備されない限り、当該土地区画整理事業は違法となる。
柏井地区においては、昭和二三年に終了した土地区画整理事業により既に宅地の利用増進が実現されているため、宅地の利用増進を図るための何らの事業も存在しない(右②の欠如)。
また、法二条一項の「土地の区画形質の変更」にいう「形状の変更」とは、「形状を整然とすること」「形状を改良して適正にすること」をいうのであって、ただ形が変わればよいというものではない。したがって、従前地から道路拡幅部分を控除した残りを仮換地として指定する場合、土地の形の物理的な変更があるとしても、そのことから直ちに法二条一項にいう「土地の区画形質の変更」があるとはいえないのであり、実質的にみて、形状がよくなるような事業でなければならない。しかしながら、本件事業計画において定められた設計の概要によれば、柏井地区においては、県道鳥居松線(以下「鳥居松線」という。)の幅員が一〇メートルから二二メートルに拡幅され、これによって、柏井地区内における鳥居松線に近接する宅地の地積に減少が生じることになるが、これ以外には、本件事業の前後において何の変化もないから、土地区画整理事業に必要な「土地の区画形質の変更」がない(右③の欠如)。
鳥居松線は、昭和三六年に、既に幅員を二二メートルにする旨の都市計画決定(変更)がなされており、その拡幅は、県道を設置し維持管理する者が本来行うべき事業であって、一団の土地を対象とする土地区画整理事業の対象外の事業である。しかも、柏井地区の再編入は、再度の土地区画整理事業の必要性からではなく、土地区画整理事業に対する補助金取得に必要な施行面積を充足することを目的としてなされたものである。
したがって、柏井地区は、必要もないのに本件施行地区に含まれており、法の本来予定する事業が行われることがないから、本件事業計画は、柏井地区においては、法の定める土地区画整理事業の要件を具備していない点で、法二条一項に反し違法である。
(2) 法の手続の脱法的利用による財産権の侵害
本件事業計画においては、土地区画整理事業の必要がない柏井地区を施行地区に編入し、この地区の宅地の権利者らの犠牲によって鳥居松線の拡幅、整備を行おうとしているのであるから、土地区画整理事業をその本来の目的とは異なる目的のための手段として脱法的に利用していることになり、更に、土地区画整理事業として鳥居松線の拡幅を行おうとするため、鳥居松線に接していない宅地まで本件施行地区に巻き込むこととなった。これは、「健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資する」(法一条)という法の目的に反するものである。
すなわち、鳥居松線の拡幅事業は、本来買収又は収用によってなされるべきものであるにもかかわらず、柏井地区においては、土地区画整理事業の必要性も、その実体も全くないのに、同事業に藉口してなされている点で、法一条に反し、また、柏井地区の宅地の権利者に対して地積の減少、清算金の賦課という負担を課するものであるから、宅地権利者の財産権を侵害するものであり、憲法二九条に反する。
(3) 柏井地区の土地の権利者が受ける不公平、不平等
柏井地区は、前回の土地区画整理事業において減少等の負担を果たしたことにより、既成市街地として良好な土地利用がなされているにもかかわらず、本件事業計画において再度施行地区に編入され、原告らを初めとする地権者は、平均減歩率21.30パーセントに対応する減少や清算金の負担を強いられることになる。このことは、原告ら柏井地区の地権者に対し、次のような二重の不公平、不平等を強いるものである。
第一に、本件施行地区のうち、鳥居松線以南の区域は、老朽木造家屋が密集し、宅地が不整形に細分化され、道路は狭くかつ屈折している上に私道が少なくないといった様々な問題を抱えており、宅地の利用増進のための事業が必要とされているが、この区域における宅地の利用増進の目的を達成するために、土地区画整理事業を必要としない柏井地区を本件施行地区に編入し、柏井地区の地権者に負担を課するのは、明らかに不公平、不平等である。
第二に、前回の土地区画整理事業の際に、柏井地区とともに施行地区とされていた柏井地区に隣接する地区(春日井市柏井町一丁目、同市八光町一丁目のうち、本件施行地区に含まれていない地区)との比較では、両者が、前回の土地区画整理事業の結果、等しく良好な宅地として利用されているにもかかわらず、一方は本件施行地区に編入されて再度の負担を受け、他方は道路を一本隔てているというだけで再度の負担を免れている。
(二) 照応原則違反
前回の土地区画整理における宅地の平均減歩率は、三〇パーセント強であるから、本件事業により八パーセント(柏井地区の最大減歩率)の減歩負担を受けるとすると、合計35.6パーセントの減歩率となる。しかしながら、前回の土地区画整理事業の対象とならなかった地区の最大減歩率は、二五パーセントであるから、既施行地区の減歩が未施行地区の減歩と比較して格段に大きく、両地区間の不権衡は著しい上、本件各仮換地指定処分は、原告らが従前地において享受している種々の生活利益を破壊し、かつ、従前地の使用収益を停止するだけであって、原告らが権利を有する土地には何らの改善ももたらさないのであるから、法九八条二項、八九条の照応原則に違反し、違法である。
原告ら個別の事情は、以下のとおりである。
(1) 原告佐藤征一
① 従前地柏井町一丁目三番及び八光町一丁目一三番と仮換地五街区一七番
まず、三番の土地については、もともと整形であるから全く形状の変更を要しなかったのに、仮換地はかえって不整形になっており、法の趣旨に逆行している。しかも、県道八光線(以下「八光線」という。)に面する部分の間口が従前に比して著しく狭くなり、南側隣接地の東への食い込みが従前に比して著しく大きくなっていて、いずれの点においても、土地の効用を著しく損なうものとなっている。原告佐藤は、三番の土地を自動車三六台の駐車場として使用しているが、仮換地が右のような形状になったことにより、自動車の出入に支障が生じるなど、単に面積の減少に止まらない重大な悪影響を受けることになる。
また、右仮換地指定がなされた当時、三番の土地(宅地)が共有であって原告佐藤の持分は三五〇分の三四三であり、一三番の土地(畑)が原告佐藤の単独所有であったにもかかわらず、このような所有関係の異なっている二筆の土地に対して一筆の土地が仮換地として指定されると、所有者、共有者間において、その使用、収益、権原の有無及び範囲について無用な紛争が生じることとなる。更に、両従前地は、元々地目も異なっている。したがって、このような二つの土地に一つの仮換地を指定することは、許されるべきではない。原告佐藤も他の共有者も、このような仮換地指定に同意していない。
② 従前地柏井町一丁目四番と仮換地五街区一〇番
右従前地は、おおむね長方形状をしていたのに、右仮換地は、どの辺も平行、直角の関係にない四角形となって著しく不整形となっている。これは、隣接する他の所有者の土地がおおむね整形になっていることと比較して、著しく不平等、不公平であって許されない。
③ 従前地柏井町一丁目五番二と仮換地五街区九番
右仮換地は、間口約三メートル、奥行約五八メートルの異常に細長い形状であって、その形状自体からして利用価値のない土地となっている。このような異常な形状の土地を作り出すことは、法の趣旨を逸脱しており、また、五街区一〇番の仮換地(従前地は柏井町一丁目四番の土地)とは従前地の所有関係を異にしているから、これと合わせて照応性を考えることは許されない。
④ 右①ないし③の各従前地の面積減少率は、いずれも0.923であり、不足渡指数は、①の従前地につき五七三二個、②の従前地につき七三八五個、③の従前地につき一二六五個と指定されており、いずれも極めて大きな数字となっている。
以上のことは、大幅な減少がなされる代わりに多くの清算金が交付されることを意味するが、戦後四五年間、地価が年々継続して上昇している状況の下においては、地価の上昇が清算金の決定に正確に反映されている場合を除き、宅地所有者に不利益を与えることとなる。本件事業において、不足渡指数の算定、清算金の額の決定に際し、清算金交付時点までの地価の上昇が反映されないおそれは極めて大きく、そのような場合には、右のように不足渡指数として極めて大きな数字の定められた原告佐藤は、地価の上昇による利益を奪われ、莫大な不利益を受けることになるから許されない。
(2) 原告小林保(従前地柏井町一丁目一番と仮換地五街区一二番)
右従前地は、公道(八光線)に面する西側の間口が広く、鳥居松線に面する南側の間口が狭く、南北に細長い形状となっている角地であり、原告小林は、右従前地上に、昭和五一年建築の軽量鉄骨陸屋根二階建店舗を所有し、一階の一部分において自らブティック店を経営するほか、一階の残部を喫茶営業のために、二階部分を歯科医のためにそれぞれ賃貸している。
これに対して、右仮換地は、東西方向の奥行がほぼ近似した正五角形に近い形状となり、また、道路の角切りが大きくなるため、八光線と鳥居松線に等分した形態となる。
ところで、右従前地付近は、八光線が地域商店街であるのに対して、鳥居松線は通過道路の性格が強く、これに面する土地は商業適地とはいえない状況にあるが、本件事業により鳥居松線が拡幅されると、その傾向は一層顕著になると思われ、原告小林のブティック営業や賃貸部分の営業にとっては、現在に比して八光線に面する部分の間口が狭くなる分不利になることが予想され、目下順調であるこれらの営業が成り立たなくなるおそれがある。また、右建物は、解体移築が予定されているが、工事期間中は近隣に仮店舗を設ける必要があるのに、直近には適当な候補地を見出しにくく、離れた場所に仮店舗を設けることとなったり、休業を余儀なくされるようなことになれば、現在の固定客層の足が遠のいてしまう心配があり、かくては営業上重大な打撃を受けることとなってしまう。
また、右仮換地指定における不足渡指数は一一五五個であるが、換地における土地の評価が、通常の取引価格より相当低いのを常とすることからすれば、不足渡指数が大きければ大きいほど経済的不利益も大きくなってしまい、原告小林に大きな不利益をもたらす。
結局、原告小林は、現在地において安定的な営業を営んでいるところ、右仮換地指定は、営業上不利益をもたらすことはあっても、何ら利益をもたらさない。
(3) 原告松岡義孝(従前地柏井町一丁目一三番と仮換地六街区一五番)
右従前地は、南側が鳥居松線に面して間口が広く、奥(北)に行くに従って幅員が幾分狭くなる台形状となっており、同地上には、昭和二九年ころ建築した木造瓦葺平屋建の建物と、昭和四七年ころ建築した建物とが、利用上ほぼ一体となって存在し、いずれも居宅として使用されている。
これに対して、右仮換地は、南北方向の境界線が互いに平行となり、現状に比して間口が約2.5メートル狭くなるほか、鳥居松線に対する土地の傾き(正対するのではなく、斜方向に接する。)が現在より一層顕著になって、利用に不便となる。
従前地は、前回の土地区画整理によって一度整理されており、その地形にしたがって土地を利用してきたもので、再度の整形化は全く必要がなく、また、建物は、解体移転が予定されているが、現状の形態で換地上に収まるか疑問であり、建物を削られることになれば利用上の不便は一層増すこととなる。
結局、原告松岡は、本件事業によって、不利益を破ることがあっても、何ら利益を受けない。
(4) 原告村井く〓(従前地柏井一丁目六番一と仮換地五街区八番)
右従前地は、おおむね整った形をしているのに対し、右仮換地は、面積が約6.2パーセントも減少する上、必要もないのに全体として東へ移動する。
また、右仮換地指定における不足渡指数は、二三九〇個と極めて大きな数字となっており、不足渡指数の算定、清算金の額の決定に際し、地価の上昇が反映されないおそれが極めて大きく、原告村井は、地価上昇の利益を奪われ、莫大な不利益を受けるおそれがある。
(5) 原告清水ふみ(従前地柏井町一丁目六番四と仮換地五街区六番)
右従前地は、間口約八メートル、奥行約一六メートルの長方形の土地であり、その上に存在する家屋に家族五人が住んでいるが、その家屋の幅がほぼ敷地一杯である上、奥行は北側に若干のスペースを残すのみで、そのスペースは、原告清水とその家族が物干し場として使用してきたため、土地及び建物は、生活するのに非常に狭い状態となっている。
これに対して、右仮換地は、面積が4.95平方メートル(4.7パーセント)も減少し、間口が約七メートル、奥行が約14.8メートルとなって、間口四間の家を建てることもできず、原告清水及びその家族は、著しく窮屈な生活を強いられることになる。すなわち、右仮換地指定は、原告清水の従前地が過小であることを全く考慮しないものであって不当である。
また、右仮換地指定における不足渡指数は、七二八個と極めて大きな数字となっているが、不足渡指数の算定、清算金の額の決定に際し、地価の上昇が反映されないおそれが極めて大きいから、原告清水は、地価上昇の利益を奪われ、莫大な不利益を受けるおそれがある。
(6) 原告岡島澄雄(従前地柏井町一丁目八番と仮換地六街区二〇番)
原告岡島は、右従前地に借地権を有しており、転貸部分を除いた自らの使用部分は、公道に面して東西両境界線がほぼ直角に交わるほぼ正方形の土地である。
これに対し、右使用部分に対して指定された右仮換地部分(地積566.28平方メートル)は、東側の境界で従前地と平行にやや後退し、西側境界では全く変化がなく、北側の境界では従前地とほとんど同じ位置にあるから、従前地と比較すると、南側において道路拡幅分だけ境界が後退し、その分だけ地積が減少することとなっている。つまり、道路拡幅部分が、従前地の使用部分の地積595.16平方メートルと仮換地の地積566.28平方メートルとの差である28.88平方メートルのほとんどを占めているから、右従前地においては、本来の土地区画整理事業は何ら実施されることがない。
右従前地において原告岡島の使用する部分には、その全体に建物が存在するところ、右仮換地指定による地積減少によって、三棟の建物のうち一棟を除去しなければ、母屋を移転することは困難であるから、原告岡島の土地利用は、取り壊しを行わなければならないことによる制限を受けることとなる。また、原告岡島には、道路拡幅による恩恵はなく、これに伴い、通過車両の集中を招き、騒音は深夜に及ぶこととなって住環境は損なわれるから、原告岡島にとっては、借地権の一部が無償で収用されるのと同じ結果となる。更に、原告岡島が使用する借地に対する減歩率は4.85パーセントであるが、前回の土地区画整理において三〇パーセントを超える減歩負担を受けているので、これを三〇パーセントとみても、本件の減歩と通算すると、33.97パーセントとなり、この率は、松新地区の最大減歩率である二五パーセントをはるかに超えるものとなっているから、著しく不合理である。
(7) 原告岩田憲昌(従前地柏井町一丁目八番と仮換地六街区二〇番)
原告岩田は、右従前地のうち116.5平方メートルを転借しており、これに対して指定された右仮換地部分(地積111.84平方メートル)は、公道に接する南側境界が道路拡幅により後退する結果、地積が4.66平方メートル減歩(減歩率四パーセント)するほか、従前地の東側隣接地との境界で凹んでいる部分が直線化されることとなる。
原告岩田は、右従前地のうちの転借部分全体に二棟の建物を所有しているが、用途は住居で敷地利用率は約一〇〇パーセントである。したがって、本件事業の結果、前面道路の拡幅によって道路に面している部分に存在する建物は、一部取り壊しをしなければならず、その建物の奥(北側)にある建物は移動しなければならなくなる上、過渡指数一個の負担の影響を受けることとなる。
また、原告岩田の転借地は、前回の土地区画整理において約三〇メートル強の減歩負担を受けているが、これを三〇パーセントとしても、本件の減歩と通算すると32.8パーセントとなり、この率は、松新地区の最大減歩率である二五パーセントと比較すると、著しく過大であって不合理である。
道路の拡幅も、原告岩田に何の恩恵ももたらさず、通過交通量の増大による騒音・振動のみが発生する。道路拡幅は、区画整理によらずに道路用地買収によるべきであり、然るべき補償が行われなければ、原告岩田にとっては、転借権の一部を無償で収用されるのと同じ結果となる。
(8) 原告塚本鋼(従前地柏井町一丁目一二番及び同町一丁目二九番二と仮換地六街区一六番)
① 右仮換地は、以下のとおり、右従前地より更に不整形なものとなり、不適正である。
(イ) 右仮換地は、従前地以上に東側隣接地に食い込まれ、不整形さがより著しくなるとともに、土地の南北方向における中央部で広い幅をもつ部分が削られることによって、土地の有効利用は著しく制限を受けることとなる。
(ロ) 右従前地の北半分では、西側境界線と東側境界線が、ほぼ平行であるが、右仮換地では、北が狭く南に行くにつれて拡大し、不整形さは著しくなっており、後記②の利用上の障害が発生することになる。
(ハ) 右仮換地の南側半分では、依然として東西両側の境界線が平行ではない。
(ニ) 右仮換地が、仮換地六街区七番及び同八番と接する部分は、右従前地と全く変わらずに鋭角に突き出ており、同八番及び同一二番と接する部分では鈍角となる。
(ホ) また、全体として原告塚本の仮換地は、道路方向と直角ではなく、いびつな形のまま斜めに位置付けられている。
このような仮換地が指定されるに至ったのは、右仮換地が六街区全体の東西からのしわ寄せを一手に引き受けさせられたからであり、右仮換地のは、春日井市土地開発公社所有の六街区一番ないし六番の各土地が、いずれも長方形の適正な形状となっていることとは好対照に、不適正、不公平な形状となっている。更に、六街区一四番のような間口が狭く奥行の長い土地を、その場所に設けなければならない理由はない。
② 右従前地及び右仮換地の用途が、建物所有であることには変わりがないが、そうだとすれば、土地はなるべく道路面に直角に、また地形はなるべく長方形に整形されるべきで、その一部に欠け込みがあることや、両側線が平行でないことは、建物の周辺に死地が生じ、財産の有効利用を妨げることとなる。右仮換地における死地を仮換地図面上で計算すると、約53.28平方メートルとなり、仮換地面積は、この面積だけ実際には少ないこととなるから、これを控除した463.36平方メートルであり、従前地との面積比は、見かけは95.91パーセント、実質は86.07パーセントとなる。
右従前地は、前回の土地区画整理において約三〇パーセントの減歩負担を受けているが、本件事業により、更に実質14.07パーセント(名目4.09パーセント)の減歩を負担することとなる。この負担を通算すれば、前回の負担率を三〇パーセントとしても、実質39.85パーセント(名目32.86パーセント)となり、松新地区の負担率とは著しく相違する。その上、右のような不整形は土地に建築される建物は使い勝手が悪い上、外観も良くなく、建築費も増大するから、右仮換地の経済的価値は、減歩率以上に減少することとなる。
また、右従前地には、原告塚本の住居及び二階建のアパート(三戸建)がある。住居前の空地部分には自動車が四台駐車可能であり、現在では、アパートと松岡方との間を通って駐車させているが、右仮換地では、駐車場として使用している部分に自動車を進入させることができなくなるとともに、同部分が狭くなり、アパートの位置を仮換地の西側境界線に沿った形にしようとすれば、この建物を移動させなければならないので、居住者三世帯に与える影響も大きい。
右仮換地の南側は、従前地に比べ、道路拡幅によって後退するが、これでは道路拡幅部分が無償で収用されるのと同じである。
(9) 原告合資会社柳湯(従前地柏井町一丁目一四番と仮換地六街区一二番)
原告合資会社柳湯(以下「原告柳湯」という。)は、昭和三二年頃、柏井町一丁目一四番の土地と柏井町一丁目二八番二の土地の一部を賃借し、二階建建物を建てて、その一階で浴場を経営するとともに、二階を代表者とその家族の居宅として使用してきた。
浴場経営においては、駐車場の確保その他顧客に対するサービスの向上が不可欠となっているが、原告柳湯は、賃借した土地のうち、南側の公道に面する部分の大部分を顧客用駐車場として使用し、常時三台の自動車を駐車できる態勢を整えてきただけでなく、公道に面する部分の東側には、燃料(重油)用の油タンクと顧客用自転車置場を設け、浴場経営のために現在も使用している。更に、原告柳湯は、賃借地の北側境界線から南へ約1.5メートルの幅の部分を東側道路へ至る道路として使用しているが、この部分は原告柳湯の代表者の自動車通行や、浴場の修理、物品の搬出入のための車両の通行に不可欠な部分であり、土地所有者もその通行を承諾している。
しかしながら、仮換地については、仮に借地権の目的となるべき宅地の面積が減少する結果、顧客用駐車場に三台の自動車を駐車することは著しく困難となるので、顧客に対するサービス面において大打撃が生じることになる。また、道路拡幅のため油タンクを北へ移動する必要が生じるとなると、莫大な費用や時間を要するので、原告柳湯は著しい不利益を受けることとなる。更に、原告柳湯は、自転車置場を取り壊さざるを得なくなってしまうが、これも顧客に対するサービスの低下につながる。
また、原告柳湯が賃借している土地の東側には、土地所有者の建物が存在しているが、この建物は、道路の拡幅のため、北へ移転されることとなり、原告柳湯が従来から土地所有者の承諾を得て東側道路へ至る道路として使用してきた部分の使用が不可能となり、浴場経営及び原告柳湯の代表者とその家族の生活は大打撃を受けることになる。
(10) 原告伊藤鈴一(従前地柏井町一丁目二九番三及び同町一丁目二九番四と仮換地六街区八番)
右各従前地は、公簿面積の合計が234.75平方メートルのいずれも整形な土地であり、その利用において何らの不都合もなく、原告伊藤はこれらの土地から大きな利便を享受してきた。これら二筆の土地の周囲には、原告伊藤の隣地所有者が設置したブロック塀が隣地境界線に接して存在しているので、隣地との境界も明白である。
これに対し、右仮換地は、二筆の従前地をそのまま一筆としたもので、その面積は230.39平方メートル、不足渡指数は一四六二個とされている。
しかしながら、二筆の従前地の実測面積(約二三五平方メートル)は、公簿面積を上回っているから、仮換地の面積は、小さ過ぎて不当であり、このように、不足渡指数が一四六二個とされているのは、仮換地の面積が過小に評価されていることに基づくものであるから、もし、本換地の際に従前地がそのまま換地として指定されると、過渡しとなり、多額の清算金が徴収されることは明白である。
(11) 原告梶田倍巳(従前地柏井町一丁目一四番一及び同町二八番三と仮換地六街区一〇番)
右仮換地は、従前地と比べると形状において重大な変更がある。すなわち、右仮換地においては、東側において一二メートルの道路に面していた部分が著しく減少し、その分北側において六メートル道路に接する部分が増大することとなるが、原告梶田は、豆腐の製造販売業を営んでおり、満七〇歳に達するまでのあと数年間のみ営業を継続したいと考えているにもかかわらず、右のとおり土地の形状が変更されることになれば、土地の九〇パーセント以上の部分に存在する地上建物(住居、物置、車庫)をすべて取り壊した上、新築せざるを得ないことになり、右営業の残存予定期間と比較して著しく無駄である。
また、東側において一二メートル道路に面する部分の減少は、営業上の立地条件の点で不利益が著しい。
結局、原告梶田にとって、右仮換地指定は、不利益のみを課するものであって、何ら利益をもたらさない。
(12) 原告跡見靜(従前地柏井町一丁目二八番一及び同町二八番四と仮換地六街区九番)
右仮換地は、右従前地と形状においてほとんど変化はなく、面積もわずかに1.7パーセント減少するに過ぎないから、建物の移動等の必要性は全くない。また、本件事業により、右従前地の北側道路の拡幅が予定されているわけではないから、土地の効用が増大するわけでもない。
しかしながら、右仮換地においては、過渡指数が二個とされていることからみて、原告跡見に対し、本換地に際して過渡清算金の支払が要求されることは必至である。したがって、右仮換地指定は、原告跡見に何ら利益をもたらさず、一方的に不利益のみをもたらすものである。
4 よって、原告らは、主位的に本件各仮換地指定処分が無効であることの確認を求め、予備的に本件各仮換地指定処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、原告らが春日井市の住民であること、原告松岡以外の原告らが、柏井地区内に別紙「土地権利者一覧表」記載のとおり土地の所有権又は賃借権を有していることは認め、その余は知らない。
2 同2は認める。
3(一)(1) 同3(一)(1)のうち、本件事業計画において、鳥居松線の幅員が一〇メートルから二二メートルに拡幅され、これに隣接する宅地の減少が見込まれていること、昭和三六年に鳥居松線の幅員を二二メートルに拡幅するとの都市計画決定がなされたことは認め、その余は争う。
(2) 同3(一)(2)は争う。
(3) 同3(一)(3)のうち、本件施行地区内の平均減歩率が21.30パーセントであり、原告らもこの負担に応ずべき立場にあること、鳥居松線以南の地区については、過去に土地区画整理事業が施行されていないこと、鳥居松線以南の地区は、老朽家屋も多く、宅地が不整形に細分化されていて、多くの道路が狭く屈折しており、私道も少なくないこと、前回の土地区画整理事業の施行地区に属していながら、本件事業の施行地区外となった土地については、原告ら所有地と道路一本を隔てているのみであっても、本件事業において原告らに予定されるような負担をする必要がないことはいずれも認め、その余は争う。
(二)(1)① 同3(二)(1)①について
原告佐藤が、柏井町一丁目三番の土地を駐車場として利用していること、仮換地の地積が従前地の地積より少ないこと、本件の仮換地指定処分当時、三番の土地が共有であって原告佐藤の持分は三五〇分の三四三であり、一三番の土地が原告佐藤の単独所有であったことは認め、その余は否認し、主張は争う。
なお、換地設計は、土地区画整理事業計画決定の公告日である昭和六三年一月一四日の権利状態に基づいて行われているのであって(換地細則三条)、右基準時にあっては、いずれの従前地も原告佐藤の単独所有であったことは、登記簿の記載から明白である。
② 同3(二)(1)②について
争う。
③ 同3(二)(1)③について
仮換地五街区九番が、間口約三メートル、奥行約五八メートルの細長い形状であることは認め、その余の主張は争う。
右仮換地の指定に当たっては、従前の宅地の利用状況(従前二筆の土地に跨がって、原告佐藤所有にかかる一棟の建物が存在していること)を重視しているものである。
④ 同3(二)(1)④について
争う。清算金は、従前地と換地との不均衡及び換地相互間の不均衡を是正することを目的とするものであり、具体的には土地の位置・形状等を考慮して定められる従前地と換地の各評価額の差によって確定するものである。この意味で、清算金が決定された時期と清算金支払時期の間にずれがあるため、支給時期における清算金の額が金額決定時以降の地価の動きを当然に反映できないとしても、土地区画整理事業の枠組み構造上は、是認されていると解すべきである。
(2) 同3(二)(2)について
従前地の位置及び形状、その地上にある建物の規模及び構造は認め、その余は知らない。また、仮換地の形状はおおむね認め、その余の事実は否認し(本件事業計画上において、八光線・鳥居松線の街区双方ともに同格の商業地と位置付けられているのであって、現に鳥居松線に沿って多数の商店が存在している。)、主張は争う。建物等を移転もしくは除却した場合等については、通常生ずべき損失を補償することが定められている。
(3) 同3(二)(3)について
従前地の状況、仮換地の位置及び形状、従前地が過去に土地区画整理を経験した土地であることは認め、その余は争う。
(4) 同3(二)(4)について
従前地がおおむね整った形をしていること、仮換地の地積が、従前地より6.2パーセント減少すること、仮換地の位置が、従前地と比べ全体的に東へ移動していること、仮換地の不足渡指数が二三九〇個であることは認め、その余は争う。清算金に関しては、右(1)の④と同じ。
(5) 同3(二)(5)について
従前地の地積及び形状、地上建物の位置及び原告清水がこの建物に居住していること(原告清水以外の占有状況は知らない。)、仮換地の不足渡指数が七二八個であり、従前地に比べて面積が4.95平方メートル(4.7パーセント)減少することは認め、その余は争う。清算金に関しては、右(4)と同じ。
(6) 同3(二)(6)について
原告岡島が、従前地に建物所有を目的とする賃借権を有すること、その部分に対する仮換地が、東側の境界で従前地と平行にやや後退し、西側境界では全く変化がなく、北側の境界では従前地とほとんど同じ位置にあり、従前地と相違するのは、南側において道路拡幅分だけ境界線が後退し、その分だけ地積が減少する点であること、従前地から道路拡幅となるべき地積が、従前地と仮換地の地積の差に近似していること、仮換地の減歩率が4.85パーセントであることは認め、その余は争う。
(7) 同3(二)(7)について
指定された仮換地部分は、従前地に比し、公道に接する南側境界が道路拡幅により後退し、地積の減少は4.66平方メートル(減歩率四パーセント)であって、従前地の東側隣接地との境界で凹んでいる部分が直線化されること、原告岩田が、現在転借地の全体に二棟の建物(用途は住居)を所有しており、その床面積が、転借地の地積のほぼ八九パーセントに当たることは認め、その余は争う。
道路等の公共用地の確保のために、建物等の移転を行う場合には、その機能が回復できるように移転補償を行うこととされており、単純な除去・取り壊しの補償内容とは異なる。
(8) 同3(二)(8)について
右(8)①(イ)のうち、東側隣接地の仮換地が、西方に移動した位置に指定されたこと、同(ロ)のうち、従前地の北側半分については、西側境界線と東側境界線がほぼ平行であるが、仮換地では、北が狭く南に行くにつれて拡大していること、同(ハ)ないし(ホ)の事実、並びに仮換地の過渡指数が四個であることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。原告塚本の従前地は、接道間口が小さく奥行が広いやや徳利型の形状であったが、仮換地は、間口が広がっているとともに、奥に向かって緩やかに狭くなっているから、従前地に比して使用上の利便は大幅に拡大したというべきである。
(9) 同3の(二)(9)について
原告柳湯が、柏井町一丁目一四番の土地の一部につき賃借権を有し、その地上に二階建の建物があること、同建物の一階が公衆浴場であり、建物内に原告柳湯の代表者らが居住していること、原告柳湯主張の位置に重油タンクと自転車置場があることは認め、その余の事実は知らず、主張は争う。
なお、柏井町一丁目二八番二の土地の一部に関する賃借権は、法八五条一項による申告の手続を経由していない。また、土地区画整理事業の手続上、移転を要する物件かどうかは事業に支障があるか否かの判断によることになるが、物件の移転に伴う損失補償の基本は、移転して機能を回復することであり、移転を要する物件が当然に除却の対象となるわけではない。
(10) 同3(二)(10)について
ブロック塀が、隣接境界付近に存在すること、被告が仮換地指定を行うに当たっては、原告伊藤の所有する二筆の土地の公簿上の地積を基準としたこと、仮換地の不足渡指数が一四六二個であることは認め、その余の事実は知らず、主張は争う。
春日井都市計画事業勝川駅前土地区画整理事業施行条例一六条一項では、土地区画整理事業の基準となるべき公簿上の地積と実際の地積に差がある場合には、事業施行から六〇日以内に基準地積の更正を求め得ることになっており、地積更正はその権利者においてなすべきものであって、事業施行者においてこれをなすべき義務を負っているわけではないところ、原告伊藤においては、地積更正の手続をとった事実はない。
(11) 同3(二)(11)について
従前地が、東側において一二メートルの道路に接していること、仮換地が、東側において一二メートルの道路に、北側において六メートルの道路に接していること、原告梶田の年齢が六〇歳を超えており、その営業が豆腐製造販売業であることは認め、その余の事実は知らず、主張は争う。
(12) 同3(二)(12)について
従前地と仮換地の間に、形状の上で大きな変化がなく、仮換地の地積が、従前地の地積より1.7パーセント程度減少していること、仮換地の過渡指数が二個であることは認め、その余は争う。
4 同4は争う。
三 被告の主張(請求原因に対する反論を含む。)
1 本件施行地区に柏井地区を含める必要性
過去において、土地区画整理事業が行われたことがあるからといって、重ねて別の土地区画整理事業を施行することを禁止する規定は存在しない。当該地域の発展や開発計画が、当初の区画整理事業における予測と大幅に相違するなどして再度土地区画整理事業をその地域の全部又はその一部を含んで計画することは、その必要性の存する限り何の制約もないというべきである。
柏井地区を含む勝川地区一帯は、昭和一六年に始まった勝川都市計画事業(勝川土地区画整理)の施行当時とは比較にならないほどの飛躍的発展と変貌を遂げているから、再度の土地区画整理の必要性はあった。
原告らが主張する不公平論(請求原因3の(一)(3))は、春日井都市計画事業勝川駅前土地区画整理事業換地細則・同事業評価細則の中に、評価の問題として全て折り込み済であり、被告は、これらの規定を公平かつ適正に適用して、本件各仮換地指定処分を行っている。
2 柏井地区を本件施行地区に含めるメリット
(一) 柏井地区は、昭和一六年に事業の着手があり、同二三年に終了した土地区画整理事業の施行地区に含まれていたが、本件事業において、再度施行地区に含まれ、これによって、柏井地区にもたらされるメリットは、以下のとおりである。
(1) 都市計画に定められた用途地域(商業地域)の目的に沿った土地の有効利用の推進実現を図る上で極めて有効である。
(2) 都市計画道路としての連続性・整合性の確保の要請に対応することができる。すなわち、現在春日井市内において整備が進められている幹線道路と道路網との関係では、柏井地区の道路網は、昭和一六年に考えられたもので、いくつかの不合理な点(殊に拡幅道路と路線との連続性)があり、これを是正することができる。
(3) 区画整理事業の実施によって勝川駅前を経由して集散する人口の増加が見込まれ、春日井市の西玄関口として勝川地区の発展につながり、これが柏井地区に良好な影響をもたらす。
(4) 昭和二四年の区画整理事業完了から相当の日時が経過して、当時に想定された交通事情・住宅商店などの土地利用事情からは大きな変化が生じており、現状にふさわしい土地の高度利用を図るためには、勝川駅を中心に市街の再整備が求められているのであって、柏井地区にもこうした刺激が良好な影響をもたらすことが予想される。
(5) 周辺の区画整理を実施することによる波及効果として、商業地区の活性化が図られる。
(二) 本件事業の進捗により、従前土地区画整理事業を経験している一街区ないし七街区に顕在化した利益の概況は、以下のとおりであり、事業の進展により、こうした便益は更に一層拡大・充実することが見込まれ、柏井地区についても宅地利用増進による利益が一層大きくなることは必定である。
(1) 平成六年に都市計画道路三・四・二九鳥居松線の一部(延長二四〇メートル)の整備が終わり、この区画については、車道が四車線(一部三車線)に増えるとともに、歩道幅員が1.2メートルから2.0メートルに拡幅され、新たに一メートルの植樹帯が築造されて、街路機能が増進されたほか、中央分離帯(幅二メートル)が新設された結果、従前に比べて各段に交通安全施設の充実が図られたのみならず、街並の整備が進んだ(別紙図面のピンク色で塗った部分が整備区間に該当する。)。
(2) 平成四年度から六年度にかけて区画道路の整備を進め、幅員八メートルの区画道路の延長八八メートル及び幅員六メートルの区画道路の延長二四〇メートルの各完成をみたことにより、関係諸街区の宅地利用の増進ができた(別紙図面のベージュ色及び緑色で塗った部分が整備した道路を示す。)。
(3) 平成四年度中に雨水排水のための整備として勝川二号幹線及び勝川支線が完成した結果、事業区域内の宅地等からの雨水排水の上でより安全度が高められた(別紙図面の水色の実線は、施工が終わって供用が開始されている部分を示す。)。
(4) 区画整理事業内における計画街路の築造に当たっては、他事業である公共下水道管の敷設を併せて行うよう努めており、完成した汚水排水管を直接又は間接に利用できる街区にある宅地については、汚水処理の面で大幅な改善があったということができ、より一層宅地利用の増進があった(別紙図面の黒色実線は、施工が終わり、供用が開始されている汚水排水管を示す。)。
(5) 平成四年一〇月、勝川駅前に位置する一一街区に立体換地建築物が完成したが、この建築物内には、市民サービスコーナー、企業情報コーナー、スポーツクラブ、カルチャーセンター等の公益施設が設置されたので、近隣の住民や勝川駅で乗降する市民などが手軽にこれらを利用することができるようになりこの地域の一帯はこうした公益の便において、より一層進展したということができる。
(三) 本件事業が、柏井地区にメリットばかりをもたらすものではないとしても、事業の効果は、施行地区全体としてみる必要があり、柏井地区をも包含した本件施行地区全体としては、本件事業によって法の定めた事業目的に適う効果を実現できるというべきである。
3 個別買収と土地区画整理事業の比較
鳥居松線の拡幅道路敷地を、個々の土地所有者又は借地権者から個別にその権利を買い受ける方法(任意に買い受けができないときの土地収用法に基づく収用を含む。)により取得した場合に、個々の地権者が被る不利益や、これら個々の不利益が複合して「柏井地区」が受ける不利益と、本件事業における仮換地指定などにおいて地権者が負担・受忍することが予定されている不利益を対比すると、後者の手法によった場合の不合理・矛盾の方がはるかに小さい。すなわち、原告らが権利を有する各土地の存する区域について、鳥居松線拡幅のために必要とされる土地の概況、個別に地権者から買い受け又は収用した場合における個々の地権者の地積の減少とそれに伴う影響のあらまし、本件事業における仮換地指定による地積の減少とそれに伴う影響のあらましを整理すると、別紙「道路拡幅用地取得に関する対比」(土地番号が○で囲んであるのは、原告らが権利を有する画地である。)及び別紙「仮換地前後対照図」に各記載のとおりであり、これらを要約すると以下のとおりである。
(一) ごく一部の例外の画地(12、13、⑮の画地など)を除いては、画地の地積減少割合は、個別買収の手法によるよりも、仮換地の方が少なくて済む(例えば、1、②、③、⑥、9、⑩などの画地)。
(二) 地積減少の負担を一部の画地にのみ負担させることとはならない仮換地の方が、地積減少の負担を地域に均霑させることができるので、道路敷提供の負担が一部の土地だけに集中することを回避できる(1、14、18、20などの画地は個別の買収によるときは、現在の規模の地積を確保して事業を営むことが物理的に不可能となるが、仮換地の場合にはそれが可能となる。)。
(三) 道路敷の負担を受けた後の画地の形状は明らかに仮換地指定による場合の方が好ましいし、一部の不整形地の整形化(例えば⑪、⑮、⑯の画地)や無道路地の解消(例えば⑤、19の画地)などという副次的効果を生むことができる。
(四) 地域の街並としても、各地権者の実生活の変動を最小限に抑え、基本的に現地での生活が維持できるように整理することは、仮換地において初めて可能となるし、被告が先行して取得した画地(7、20の従前地)を一〇〇パーセント活用できることになる(これら先行取得した土地があっても、個別買収の手法によるときは、影響の大きい1、②、③などの画地の不利益を吸収することは非常に難しい。)。
以上からすると、鳥居松線の道路拡幅用地取得に限定しても、個別買収の方法による土地取得のときに生じる不利益よりも、土地区画整理事業の仮換地による不利益の方が、個々の区画についてみても、大局的に地域全体を見ても小さいことになる。したがって、本件土地区画整理事業は、憲法二九条一項の理念にも合致している。
4 本件各仮換地指定処分における照応性について
(一) 法の照応原則に関する考え方が、換地及び従前地の位置・地積・質・水利・利用状況・環境等が照応するように定めることを原則としつつも(法八九条)、これを貫徹できない状況にある場合には、権利者の希望や一定規模以下の過小宅地について行う金銭のみの清算や、立体換地・飛換地などの方法により経済価値の公平を確保しつつ行う例外的指定を許容するとの立場であることは、その法文自体から明らかである(法九〇条ないし九三条、九五条)。
そして、法八九条が挙げる要素の一部に不照応があっても、直ちに「照応原則違背」ということはできず、これらの要素を総合的にみて全体として照応しているかどうかで判断するものというべきである。
(二) 本件各仮換地指定処分は、以下の理由により、いずれも照応の原則に反するものではない。
(1) 街区と仮換地指定位置
原告らが権利を有する五街区と六街区においては、すべての土地について、当該街区内を出ることなく仮換地指定を行っている。
(2) 土地・水利と土地利用
本件施行地区は、すべて既成市街地であるので、土地・水利については従前どおりであって、変動がない。
営業のための店舗等を有する地権者の場合には、道路の新設により、人通りの変動もあり得るが、道路は現存するものの拡幅整備を中心とし、接道の関係は従前地のときと同規模である。
住宅用地・事務所用地となっている土地の利用状況は、仮換地指定の前後で変化はない。
(3) 環境等
仮換地指定後は、交通量の増加と通行車両等の騒音振動及び一定限度内で日陰被害等の発生する可能性があるが、現在の道路の拡幅整備を中心とする公園・歩道等の公共施設の充実により土地利用の増進の効果が期待される。
5 事情判決
仮に、本件各仮換地指定処分につき何らかの違法又は瑕疵が存在するとしても、以下の理由により、行政事件訴訟法三一条一項が適用され、本件請求は認められるべきではない。
すなわち、本件仮換地指定処分が取り消されることになれば、原告らが権利を有する五街区及び六街区のみならず、柏井地区と同じく過去に土地区画整理事業を経験している一街区ないし四街区についても仮換地指定処分の前面見直しが必要にならざるを得ない。更には、本件施行地区の西側に隣接して愛知県が施行している勝川土地区画整理事業において、その施行地区内で柏井地区と同じく過去に土地区画整理事業を経験している区域についても同様の取扱いをしなければならなくなる公算が大である。他方、原告らに生ずる不利益は極めて軽微であるし、区画によってはかえって利益を受けるところも少なくない。
四 原告の反論
1 右二の3(二)(1)①について
そもそも換地細則は、被告市長が作成したものであって、施行者側の意向のみで過去の一時点に基準時を固定してしまい、以後本換地処分までの物権変動をすべて無視できるとするのは不合理である。また、被告が基準時として主張する昭和六三年一月一四日(本件事業計画決定公告日)の後においても、被告は、平成元年一二月一二日に事業計画変更決定を行うなどの重要な行為を行っている。施行者側に変更の必要が生じた場合には変更をするのに地権者側に既に生じていた権利変動を無視するのは全く不合理である。しかも、柏井町一丁目三番の土地が共有であることは、施行者である被告が知り尽くしていたのであるから、なおさら不合理である。
2 被告主張2について
(一) 被告主張2の(一)は、いずれも具体性がなく、それ自体失当であるし、特に同(一)の(5)は、仮に何らかの波及効果が及ぶとしても、それは柏井地区に限られるものではなく、本件施行地区外の地域にも及ぶものであるから、波及効果の及ぶことが本件事業の施行地区への編入を合理化する理由とはなり得ないことは自明である。
(二) 被告主張2の(二)は、以下のとおり失当である。
(1) (二)の(一)について
柏井地区に関する限り、これが唯一の現状変更であり、この道路拡幅と国・県道の補助金取得のために、土地区画整理事業を悪用し、原告らに不当な不利益を及ぼしているのである。
(2) 同(2)について
本件における争点は、再編入地区、とりわけ柏井地区における再編入の必要性であって、新規編入の松新地区における土地区画整理の必要性は何ら問題になっていない。
そして、七街区における六メートル道路の新設は被告所有地上において行われたものであり、このような道路の新設は被告が独自に行えばよいのであって、土地区画整理の手法を用いる必要が全くないものである。また、一街区と二街区の間の道路を整備したとの点も、柏井地区には直接関係はないが、当初から六メートルの幅であったものであり、新設でもなければ拡幅でもない。
(3) 同(3)について
柏井地区においては、雨水排水の施設の改善はない上、このような設備の改善は、本件事業とは別個の下水道計画に基づいて行われるものであるから、仮に施行が同時に行われることがあるとしても、そのことから土地区画整理事業の必要性が根拠づけられることはあり得ない。柏井地区においては、県道を除いて道路整備事業さえ存在しないのであるから、同時施行ということもあり得ない。
(4) 同4について
汚水排水管の整備は、右(3)と同様に別個の下水道計画に基づいて行われるものであり、土地区画整理事業の必要性とは無関係であるし、柏井地区における汚水排水管は本件施行地区編入前から敷設されているものである。しかも、柏井地区では、本件施行地区に編入されることにより、下水道整備が遅れ、宅地の利用増進が図られず、かえってマイナスとなっている。
(5) 同(5)について
駅前立体換地のなされた地区は、新規編入地区であって、土地区画整理事業の必要性が問題となっていない地区である。
3 被告主張3について
(一) 本文について
被告は、鳥居松線に面した土地のみに着眼して、それ以北の北側道路や南北方向道路に面した土地の権利者を全く無視している。これらの権利者は、土地区画形質の変更を全く受けないにもかかわらず、清算金の負担を課されるものであって、県道拡幅の便宜のため、これらの権利者に一方的な不利益を及ぼすことは許されないはずである。被告が土地区画整理の制度趣旨を離れてこれを悪用したことの不都合が、この点に集約されている。
買収によって、道路拡幅がなされる場合、買収用地に対しては時価による補償がなされる。買収の結果、残地が過小となり、その利用に支障をきたし、補償を得ても損失の填補が十分でないことがあり得るが、このような場合には残地の買収がなされ、替地が必要となる場合は、近隣の公有地その他の土地が替地として供される(斡旋を含む。)など、様々な方策が設けられている(土地収用法七六条、七四条、八二条一項、九〇条など。)。このように、買収の場合、時価による補償がなされるので、財産価値としては均衡がとれるようになっており、更に拡幅用地分のみの買収で問題の生ずる土地については必要な対処がなされるようになっている。しかし、残地が過小となる土地が多数発生するような場合、かような調整が困難なことがある。
本件において検討すべきなのは、鳥居松線の拡幅を買収によって行うことにより、多数の過小残地が発生して、買収によっては対処できないかどうかであり、このような問題がなければ、道路の拡幅は買収によって行っても何らの問題もないのであり、本則どおり買収によって行われるべきものである。
法九一条二項、同法施行令五七条は、過小宅地の基準となる地積を定めており、これによれば、原則的には一〇〇平方メートル未満の地積が過小宅地とされ、例外的に商業地域、近隣商業地域、準防火地域、防火地域については六五平方メートル未満の地積が過小宅地とされているが、本件事業計画で、鳥居松線の拡幅を買収方式で行った場合、残地の地積が過小となる土地は全く存在しない。すなわち、鳥居松線の沿道地域は商業地域であり、買収の結果、残地が六五平方メートル未満となる土地は全く存在しないし、その他の土地についても、残地が一〇〇平方メートル未満となる土地は二筆あるものの、他の一四筆の土地については一〇〇平方メートル未満となることはなく、右二筆の土地においても、残地が一〇〇平方メートル未満とならないようにする解決方法がある。
したがって、買収方式による拡幅には、問題がなく、不合理なところはない一方、土地区画整理方式による場合は、対価なくして土地を接収される結果となるのであって、他に区画形質の伴わない本件のような場合には、土地区画整理によることの方が大きな不都合をもたらすことは明らかである。
(二) (一)について
別紙「道路拡幅用地取得に関する対比」によれば、土地区画整理方式の方が地積減少割合が大きいのは、5、11、12、13、⑮、19の六土地であり、松新町である20の土地を除けば一九土地中六土地(三一パーセント)であり、これだけの数があれば「ごく一部の例外」とは到底いえない。
土地区画整理方式の目的が「地積減少の負担を一部の土地のみに負担させないで地域に均霑させる」というのであるなら、買収よりも土地区画整理方式の方が地積減少が大きいというのはあってはならないことであり、そのような結果となる土地区画整理方式の採用は誤りである。
(三) (二)について
(1) 五街区、六街区のの鳥居松線の反対側の市道一〇一一号線沿いの土地と鳥居松線沿いの土地との背割線(裏界線)は土地区画整理前後で変化がない。道路拡幅による沿道の地積減少の負担を地域どころか同一街区内にすら均霑しておらず、鳥居松線に沿った土地のみで地積減少を負担しているのは買収方式と何ら変わりはない。
背割線に変化がない分については、五街区(六街区よりも道路拡幅が大きい。)では、買収方式では対象とならない原告佐藤が所有又は共有する土地の減歩(仮換地9、17)及び市開発公社が所有する土地の仮換地を指定しないことにより、その大部分が調整吸収されており、一部の者に負担を集中させて、他の者の地積減少を少なくしている。また、六街区については、12、13、⑮の土地の地積減少を、土地区画整理方式を採用することによって大きくすることにより、他の土地の地積減少を小さくしているが、これは、一部の者に大きな負担をさせて、他の者の軽い負担を更に軽減していることであり、全く不合理である。
(2) 1の土地が何故に買収方式では事業継続不可能となるか、不明である。14、18の土地は、買収方式でも補償によって事業継続が可能となるが、すでに事業廃止又は休止状態であり、事業継続の必要が認められない。20の土地は、被告が先行取得しており、事業が存在していない。
(四) (三)について
五街区や六街区のように、もともと不整形な街区に、道路に平行、直角な土地境界線を定めていくと、そのしわ寄せを受ける不整形地や奥行線が道路に直角でない傾いた間口を生じることになる。
既済の土地区画整理事業の換地処分による五街区、六街区の土地は、境界線が平行な土地はほとんどない。それは意識して平行にしていないと考えるべきである。すなわち、五街区や六街区は、全体形状が不整形なので、特定の土地に不利益が集中しないように境界線を少しずつ傾けて、各土地に不利益を分散させているのである(五街区にその傾向が強い。)。また、多くの土地の奥行線ができるだけ道路に対して直角になるように境界線を設定しているのである(六街区にその傾向が強い。)。
したがって、画地の形状は、本件事業による本件各仮換地の方が好ましいとの被告の主張は、既済の土地区画整理事業における慎重な配慮を理解しない皮相的なものであり、妥当ではない。
(五) (四)について
買収方式においても、然るべくなされる補償により、実生活の変動を最小限に抑えて基本的に現地での生活が維持できる。また、買収方式では、被告が先行取得した土地(柏井町一丁目六番五)を一〇〇パーセント有効に活用できる。更に、1、③の土地は、買収方式によっても不利益はないし、②の土地の不利益も、本件事業による道路及び街区の形状を前提として角切りを大きくしているからであって、八光線の角切り端を比較的鳥居松線に平行になるように設定する等して、原位置での事業継続ができるような残地を生み出すことにより、解決できる。
4 被告主張5について
(一) 本件について、原告らは本訴より先に事業計画決定自体の無効を主張して訴えを提起したが、未成熟であるとして却下されたものであるから、本件において、事情判決をすることは許されないといわなければならない。そうでなければ、結局のところ、原告らの権利は救済され得ないからである。事業計画決定の段階では「まだ早い」として門前払いをし、個別の仮換地指定処分の段階では「もう遅い」と述べて事情判決をすることが許されるならば、法による行政や裁判を受ける権利は画に書いた餅に帰してしまう。
(二) 本件訴えは、柏井地区のみに関するものであるから、これが認められても他の街区に波及することはなく、特に、五街区及び六街区は、本件事業において街路変更が全く行われないのであるから、この地区の仮換地指定が無効とされ、又は取り消されても、他の街区には何らの影響も及ぼさない。更に、本件施行地区の西側に隣接して愛知県が施行している事業は、本件とは関係がなく、本件訴えの結論が、愛知県施行の事業に影響するという因果関係も認め難い。
(三) 本件において、原告らが主張する違法事由の核心は、柏井地区に関しては土地区画整理事業の実体が全くないということである。このことは、例えば原告伊藤の土地の区画形質は全く変更を受けないことや、原告岡島の土地が変更を受けるのは、道路拡幅部分のみであることに如実に示されている。また、柏井地区においては、現時点においても仮換地への建物の移転工事が全くなされていないが、それはまさに、柏井地区において、土地の区画形質の実質的な変更がなされていないことによる。
したがって、原告らが所有権等の権利を有する柏井地区の土地において、本件各仮換地指定処分が無効とされ、又は取り消されても、それによって、土地利用状況に著しい変動をきたすこともなく、その影響が不特定多数人に及ぶこともないから、公の利益に著しい障害が生ずることはないし、公共の福祉に反することにもならない。
五 被告の再反論(原告の反論1について)
土地区画整理事業を施行するに当たって、必ず一定の基準時を定めて事業区域内の土地に関する権利関係を固定する必要があることはいうまでもない。仮に原告佐藤の主張を仮換地指定処分や換地処分に反映させることを容認すれば、施行者は、相続や売買、贈与などの権利変動によって共有となった土地が生じる都度、その旨の地権者からの申し出に対応しなければならず、土地区画整理事業を合理的に進めることが事実上不可能となる公算が大きいことは明らかである。
更に、以下の事情を考慮すると、原告佐藤主張の共有関係は、将来発生すべき相続税を合法的に節約するための贈与に基づくものと解されるのであって、仮換地指定において、原告佐藤の単独所有の場合と別異に扱うべき特段の事情は存在しない。
1 原告佐藤と他の共有者との間には親族関係があること。
2 原告佐藤から共有者への持分移転がすべて同じ日の贈与を原因として行われており、いずれも贈与負担税を生じない持分移転であること。
3 原告佐藤は、右贈与のなされた当時満七一歳であったこと。
4 土地利用の実情についてみると、昭和六三年一月一四日(本件事業計画決定公告日)、平成元年一一月六日(贈与日)、平成二年二月九日(仮換地指定日)のいずれにおいても変動がないこと。
六 被告の再反論に対する原告の反論
被告は、柏井町一丁目三番の土地が共有となったのは、相続税節約のための贈与に基づくものに過ぎないと主張するが、根拠がないばかりか、それを単独所有の場合と別異に扱う必要がないと主張するのは乱暴な議論である。
第三 証拠<省略>
理由
一 請求原因について
1 請求原因1のうち、原告らが春日井市の住民であり、原告松岡以外の原告らが、柏井地区内に別紙「土地権利者一覧表」記載のとおり土地の所有権又は賃借権を有している事実は、当事者間に争いがなく、原告松岡が柏井町一丁目一三番の土地を所有している事実は、証拠(甲六の八)と弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
2 同2の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件各仮換地指定処分の適法性について
1 旧土地区画整理事業
証拠(乙六の一、二、乙六の三の一、二)と弁論の全趣旨によると、柏井地区については、勝川町(後に合併して春日井市となる。)が、昭和一六年一二月一六日から昭和二三年七月一五日までの約七年の歳月をかけて土地区画整理事業を行ったことが認められる。
2 本件事業計画について
本件事業計画においては、柏井地区を再度土地区画整理事業の対象としているところ、一度、土地区画整理事業の施行された土地について、再度、土地区画整理事業を施行することを禁止する法令はないから、再施行であること自体により、本件事業計画が違法であるとすることはできない。
しかしながら、法二条一項は、「この法律において「土地区画整理事業」とは、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従って行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。」と規定しているので、その事業目的に「公共施設の整備改善」と「宅地の利用の増進」という二つ目的が含まれていなければならないことになる。そうすると、本件事業計画において、柏井地区を土地区画整理事業の施行地区に含めるに当たっても、右の二つの目的がなければ、その計画は柏井地区に関する限度で違法というべきである。
なお、宅地の利用増進が図られるかどうかは、個々の宅地について判断するのではなく、原則として施行地区全体として判断すべきであるが、柏井地区のように四方が道路に囲まれ、他の地区と明確に分離できる地区については、その地区を施行地区に含めるにつき、右の二つの目的が必要であることは、法一条に規定する法の目的と法二条一項の趣旨からして明らかである。
3 そこで、次に、宅地利用の増進を図るため、柏井地区を本件施行地区に含める必要性があるかどうかについて検討する。
(一) まず、証拠(甲二、甲三の一ないし三、甲四、乙六の三の二、乙一六、一七、乙六〇の一、六〇の二)と弁論の全趣旨によると、昭和二三年に終了した土地区画整理事業では、整理後に宅地となる土地につき平均約三〇パーセントの減少がなされ(原告らの従前地については、地積の増加した土地も存在するが、五ないし四〇パーセントの減歩負担となっている。)、柏井地区全体をみても、不整形地の入り組んでいた地域が、整形化された宅地で構成された区画に整理され、土地の分布、形状等が十分改善されていることが認められる。
(二) 次に、本件各仮換地指定処分により、柏井地区について、どのような区画形質の変更がなされるかについて検討する。
(1) 原告佐藤
① 従前地柏井町一丁目三番及び八光町一丁目一三番と仮換地五街区一七番
証拠(甲六の一の一、甲一一の一、乙一六、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右仮換地指定は、整形であった地目の異なる二つの従前地に対し、まとめて一つの仮換地を指定したものであるが、二つの従前地を併せた土地の形状が不整形であるのに対し、仮換地も同様に不整形であり、形状がより良くなっているものとは認められないばかりか、八光線に面する部分の間口が従前に比較して狭くなっていることが認められる。
② 従前地柏井町一丁目四番と仮換地五街区一〇番
証拠(甲一一の一、乙一六、乙六〇の二)によれば、鳥居松線の拡幅により従前地の南側が削り取られる結果、仮換地の奥行を長くし、仮換地の形状も各辺が直線となるようにしていること、しかし、従前地がおおむね長方形であり、間口の広さがそのまま奥まで続いているのに対し、仮換地は奥(北)に行くに従って狭くなっていることが認められる。
③ 従前地柏井町一丁目五番二と仮換地五街区九番
証拠(乙一六、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、柏井町一丁目四番の従前地と一体的に利用されていた右従前地に対し、仮換地を仮換地五街区一〇番の東側に付けたものであり、従前地が不整形な土地であるのに対し、仮換地は、間口約三メートル、奥行約五八メートルの細長い形状の整形な土地となっていることが認められる。そして、右二筆の従前地は、全体としてみると不整形であるが、二つの仮換地は、全体としてみると整形となっている。
(2) 原告小林(従前地柏井町一丁目一番と仮換地五街区一二番
証拠(乙一六、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右従前地は、西側の八光線に面する間口が広く、南側の鳥居松線に面する間口が狭く、南北に細長い形状の角地であるのに対し、右仮換地は、東西方向の奥行がほぼ近似した正五角形に近い形状となり、また、道路の角切りが大きくなるため、八光線と鳥居松線に等分した形態となっており、右従前地に比べてより整形となっていることが認められる。
(3) 原告松岡(従前地柏井町一丁目一三番と仮換地六街区一五番)
証拠(乙一七、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右従前地は、南側が鳥居松線に面し、奥(北)に行くに従って幅員が幾分狭くなる台形状であるのに対し、右仮換地は、右従前地が鳥居松線の拡幅により削り取られる分だけ奥行が長くなり、南北方向の境界線が平行になっていること、しかし、仮換地は、右従前地に比して間口が約2.5メートル狭いことが認められる。右従前地に比して、右仮換地の方がより整形となっているが、その差は僅少である。
(4) 原告村井(従前地柏井町一丁目六番一と仮換地五街区八番)
証拠(甲六の三、乙一六、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右従前地は、長方形状であるが、右仮換地は、右従前地に比してより整形な長方形状となっていること、しかし、間口の広さはほとんど変化がない上、右従前地が鳥居松線の拡幅により南側が削り取られているにもかかわらず、奥行が長くはならず、裏界線の北方向への移動がないから、地積が減少していることが認められる。
(5) 原告清水(従前地柏井町一丁目六番四と仮換地五街区六番)
証拠(甲六の四、乙一六、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右従前地は、間口約八メートル、奥行約一六メートルのほぼ長方形の土地であるのに対し、右仮換地は、右従前地が鳥居松線の拡幅により削られる分だけ奥行を長くし、右従前地を北側へそのまま押し上げたような形状となっていること、しかし、地積は右従前地に比して減少し、間口が約七メートル、奥行が約14.8メートルとなっていることが認められる。
(6) 原告岡島、同岩田(従前地柏井町一丁目八番と仮換地六街区二〇番)
証拠(甲六の五、乙一七、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右従前地は、東側隣接地との境界中央部分がやや西側に凹んでいるほぼ台形の土地であること、これに対し、右仮換地は、右従前地の南側が鳥居松線の拡幅により削り取られること、しかし、東側隣接地との境界が直線となり、西側隣接地との境界線と平行になっていること、裏界線はほとんど移動がないことが認められる。右従前地に比して、右仮換地の方が全体的に整形化されているが、その差は僅少である(原告岡島は、右従前地を賃借しており、同岩田は、その一部を転借している。)。
(7) 原告塚本鋼(従前地柏井町一丁目一二番及び同町一丁目二九番二と仮換地六街区一六番)
証拠(乙一七、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右仮換地は、右二筆の従前地に比して、間口をやや広げ、東側隣接地との境界線と西側隣接地との境界線を平行にしたものであり、右二筆の従前地を併せた全体的形状を維持していること、東側隣接地である柏井町一丁目一三番が、鳥居松線拡幅により削り取られる結果、その仮換地が北側に押し上げられて指定されることの影響を受けて、間口に比べて東西の幅の広がる部分が従前地に比して北側に押し上げられるにもかかわらず、裏界線は移動していないことが認められる。
(8) 原告柳湯(従前地柏井町一丁目一四番と仮換地六街区一二番)
証拠(甲六の九、乙一七、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右従前地に比して、右仮換地は、隣接地との境界線を整備し、整形化されていることが認められるものの、右従前地の所有者は、柏井町一丁目二八番の二及び柏井町一丁目一四番二の各土地の所有者と同一であり、右二つの従前地に対する仮換地は、仮換地六街区一四番であって、もともと鳥居松線に面する従前地柏井町一丁目一四番の土地内に存在することが認められる(柏井町一丁目二八番の二及び柏井町一丁目一四番の二の二筆の従前地が袋地であったのに対し、これに対する仮換地である六街区一四番は、鳥居松線に面することになるが、柏井町一丁目一四番を含めた三筆の従前地が同一所有者に属していることを考えると、袋地となっている二筆の従前地を鳥居松線に面する場所に仮換地指定する必要性はないというべきである。)。
(9) 原告伊藤(従前地柏井町一丁目二九番三及び同町一丁目二九番四と仮換地六街区八番)
証拠(甲一一の一二、乙一七、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右二筆の従前地に対し、右仮換地は、その場所を移動することなくまとめて一筆の土地としたものであり、土地の形状はほとんど変更を受けていないことが認められる。
(10) 原告梶田(従前地柏井町一丁目一四番一及び同町二八番三と仮換地六街区一〇番)
証拠(乙一七、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右従前地は、東側が一二メートルの道路に面するほぼ三角形の土地であること、これに対し、右仮換地は、東側の道路に面していた部分が減少し、その分北側六メートル道路に接する部分が増大することとなり、整形化されていることが認められる(これとの関係で、北側六メートル道路の面していた従前地柏井町一丁目二八番の土地も、東側道路に面するように区画が変更されている。)。
(11) 原告跡見(従前地柏井町一丁目二八番一及び同町二八番四と仮換地六街区九番)
証拠(甲六の一一、甲一一の一一の一ないし三、乙一七、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、右二筆の従前地を併せた土地は、北側道路に面するほぼ台形の土地であるのに対し、右仮換地は、右従前地の東側隣接地との境界線を西側隣接地との境界線と平行にしたのみで、形状においてほとんど変化はなく、公簿上の面積もわずかに約1.7パーセント減少するに過ぎないことが認められる。
(12) その他、証拠(乙一六、乙三八の一、二、乙三九、乙六〇の二)と弁論の全趣旨によれば、八光町一丁目一番、同一二番の一、同一二番の二及び同一二番の三の各従前地は、仮換地指定後もほとんど変化がなく、また、柏井町一丁目九番、同九番の一、同三〇、同三一番、同三一番の一及び同三二番の各従前地は、いずれも春日井市土地開発公社の土地であって一団の土地を形成しており、仮換地指定後においては、その中を幅員六メートルの道路が通過することになるものの、それよって、その一団の土地の東側及び南側隣接地との境界線はほとんど移動せず、右道路の通過により、区画形質の変更を受ける土地は、右春日井市土地開発公社の土地以外には存在しないことが認められる。
(三) 右(一)(二)に判示したところによると、柏井地区については、「別紙仮換地前後対照図」記載のとおり、全体的には仮換地の方が従前地と比較して多少は整形化されてはいるものの、そのほとんどについて位置及び形状に大きな変化は認められず、土地の区画形質の変更自体による宅地の利用増進が図られているとはいえない(位置及び形状に変化の認められる従前地柏井町一丁目一四番の一、同二八番及び同二八番の三については、本来、そのような区画形質の変更が必要な土地であったとは認められない。)。
むしろ、右(一)(二)において判示したところと弁論の全趣旨によれば、柏井地区における区画形質の変更は、鳥居松線の拡幅により、これに接する土地の面積が減少することから、その負担を他の土地の所有者にも負担させるためになされているもの、換言すれば、鳥居松線の拡幅用地を生み出すためになされているものと認められる(なお、前示のように、柏井町一丁目の部分に幅員六メートルの道路が新設させることになるが、その道路は、春日井市土地開発公社の土地から生み出されたものであって、必ずしも土地区画整理事業により新設しなければならないものではないから、結局、柏井地区そのものを本件施行地区に含めた理由は、鳥居松線拡幅のための用地を生み出すこと以外にはないというべきである。)。
(四) そこで、進んで、鳥居松線の拡幅が柏井地区の宅地の利用増進にどの程度寄与するかについて検討するに、証拠(乙一三、一八、六一)と弁論の全趣旨によると、本件事業により、鳥居松線は、幅員が一〇メートルから二二メートルに拡幅され、それによって、車線が増加されるほか、歩道も拡張されること、被告は、路線価式評価法により、柏井地区のうちの五街区については、平均4.6パーセント、六街区については平均8.2パーセントの利用増進率があるとしていることが認められるが、一般に、道路の拡幅の場合には、通行車両の増加に伴う騒音、振動等の公害が発生・増加する可能性もあり、また、幅員が大きく通行車両も多い幹線道路となることにより、その両側の商業地域が分断されるという結果が生じる可能性もあるから、右のような態様の道路の拡幅が直ちにその道路に接する区域の宅地の利用増進につながるとはいえない。特に、証拠(乙一八)と弁論の全趣旨によると、鳥居松線の北側に位置する柏井地区については、鳥居松線の拡幅により、その南側に位置する勝川駅前その他の施行地区と分断される可能性があり、鳥居松線の南側に位置するこれらの地区が本件事業により商業地域として開発されると、柏井地区の商業地域としての機能に変化が生じる可能性もあって、道路の拡幅自体が直ちに柏井地区の宅地の利用増進につながるとはいえず、他に鳥居松線の拡幅が柏井地区の宅地の利用増進に寄与するとすべき具体的事情を認めるに足りる証拠はない(路線価式評価法による前示利用増進率は、右に判示したような点を考慮することなく、道路の拡幅が直ちに利用増進となるとの前提で計算されているものと推認できる上、本件においては、その具体的算定根拠が明らかではないから、道路の拡幅による具体的な利用増進の基準とすることはできない。)。
したがって、柏井地区については、鳥居松線の拡幅自体により法の要求しているところの宅地としての利用増進が図られていると認めることはできない。
(五) 次に、本件事業の対象となっている他の地区の開発との関係をみるに、証拠(乙一八)と弁論の全趣旨によると、本件事業の中心は、鳥居松線の南側に位置する勝川駅前の再開発であること、柏井地区の五街区がその西側で接している八光線が鳥居松線を超えてその駅前まで延長されること、以上の事実が認められるが、他方で、右証拠と弁論の全趣旨によると、駅前の開発の中心は、立体換地の予定されている一一街区と一〇街区であること、一〇街区、一一街区は、県道鳥居松線を高架で跨ぐ通路により、その北側に位置し市街地再開発事業の対象となっている三街区、四街区(いずれも八光線をはさんで柏井地区の反対側に位置する。)と連絡されることが予定されていることが認められるので、柏井地区は、八光線の延長と鳥居松線の拡幅により、かえって、それらの商業地域から画される可能性があるといえる。
したがって、本件事業の施行により、勝川駅前が再開発され、その結果として、柏井地区について、駅からの人の流れができ、より商業地域に適するようになると認めることはできない。
また、本件においては、駅前の立体換地に公益施設が設けられたとしても、本件事業の対象とはなっていない地域と比較して、柏井地区が特別の利益を受けるとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件事業の対象となっている他の地区との関係においても、本件事業の施行が柏井地区にとって、法の要求しているところの宅地の利用増進に特に役立つとはいえない。
(六)(1) ところで、被告は、柏井地区を本件施行地区に含めたことによるメリットを数点主張する(前記第二の三2(一))。
しかしながら、それらは、柏井地区における前示道路の整備を除いては、勝川駅を中心とした再整備の波及効果に関する抽象的なものであって、柏井地区そのものについて宅地の利用増進が図られていることの根拠とはならない。
(2) 更に、被告は、本件事業の進捗により顕在化した利益を数点主張する(前記第二の三2(二))。
しかしながら、右の点のうち、柏井地区と直接関連するのは、汚水排水管の整備と七街区における前示の幅員六メートル道路の通過のみである上、証拠(甲一、乙六六、乙六七の一、二)によれば、公共下水道の整備は、本件事業の内容とはなっておらず、別に公共下水道事業として本件事業に合わせて行われるに過ぎないものと認められ、柏井地区において土地区画整理事業を行わなければ実現できないものとはいえない。したがって、それによって柏井地区にもたらされる利益が、本件事業によるものであると認めることはできない。
(七) そこで、続いて、本件において、鳥居松線の拡幅用地を生み出すために、買収・収用によらずに土地区画整理事業を行う必要性があるかどうかについて検討するに、前示のとおり、柏井地区においては、公共施設の整備として、柏井町一丁目の部分に幅員六メートルの道路が通過すること以外には、鳥居松線の拡幅が行われるのみであり、右幅員六メートルの道路も、結局は春日井市土地開発公社の土地により生み出されたものである。また、証拠(乙一六、一七、乙六〇の一、六〇の二)によれば、土地収用法によるとした場合に鳥居松線拡幅のために買収・収用されることになる土地は、いずれもその南側部分が削られることになるだけであり、不整形になるわけではないことが認められ、それによって土地の利用が困難になるとしても、区画全体につき改めて土地の位置、分布、形状等を見直す必要が生じるとはいえない。
そして、証拠(甲一一の四、原告佐藤本人)と弁論の全趣旨によれば、実際に、柏井町一丁目六番四など、従前地が小さいため、鳥居松線が拡幅されると土地がより狭くなり、使用収益しにくくなると主張する土地所有者も存在することが認められるものの、そのことから直ちに区画全体について土地区画整理事業を行う必要性があるということはできない。収用によって使用不能となる土地に対しては、土地収用法七六条、八二条により、残地収用や替地による補償などの手当が用意されており、柏井地区については、春日井市土地開発公社の土地(柏井町一丁目九番、同九番の一、同三〇番、同三一番、同三一番の一、同三二番の各土地)を利用不能となる土地の替地として利用することも可能な状態にあることが認められる(原告佐藤本人)。
したがって、柏井地区については、買収・収用により鳥居松線拡幅用地を生み出すと、不整形な残地が多く生じ区画全体ついて改めて土地の位置、分布、形状等を見直して土地区画整理をする必要性が生じるといった事情も認められないことになる。
(八) 以上判示したところによると、本件事業は、柏井地区については、鳥居松線拡幅という公共施設の整備改善のみを目的とし、宅地の利用増進を図るという目的を欠いたものといわざるを得ないから、本件事業計画は柏井地区を施行地区に含めた点において違法というべきである。
3 よって、本件各仮換地指定処分は、その余の点について判断するまでもなく違法である。
もっとも、右に判示したように、右違法事由の有無は、柏井地区の具体的事情を前提として、本件施行地区内の他の地区との関係をも考慮しながら判断すべきものであって、その違法が明白であるとまではいえないから、右違法事由があることをもって本件各仮換地指定処分が当然に無効となるとすることはできない。また、原告らの主張する他の違法事由についても、仮にそれが肯定できるとしても、同様の理由により、明白な違法事由に当たるとすることはできない。
三 事情判決について
柏井地区に関しては、元々、春日井市土地開発公社所有の土地上に幅員六メートルの道路が新設されるほかには、街路区画そのものに大きな変化は予定されていない上、従前地について道路拡幅工事が開始され、あるいは、建物の移転工事が開始されたといった事情も認められない。したがって、本件各仮換地指定処分を取り消すことにより、公の利益に著しい障害を生ずるものと認めることはできない(前示のように、鳥居松線の拡幅用地は、土地収用法により取得すれば足りる。)。
したがって、本件においては、行政事件訴訟法三一条一項により事情判決をすべき特別の事情があるとはいえない。
四 結論
以上判示したところによると、原告らの本訴請求のうち、本件各仮換地指定処分の無効確認を求める主位的請求は、いずれも理由がないから、これを棄却し、本件各仮換地指定処分の取消しを求める予備的請求は、いずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岡久幸治 裁判官森義之 裁判官田澤剛)
別紙<省略>